広報・資料 報告書・資料



第5章 開発援助のセクター別インパクト分析



5.4 まとめ

バングラデシュ国の政府開発予算に占める開発援助の割合は、1990年以降低下傾向にあるが、1982~99年までの18年間で平均48.7%を占めるなど、依然としてその果たす役割は大きい。その役割を同期間における名目経済成長への寄与度でとらえると、開発援助によって年平均1.6%の成長がもたらされたことがわかる。このように、我が国ODAを含む対バングラデシュ開発援助は多少なりとも同国の経済発展に貢献してきたと言える。しかしながら、昨今我が国を含む援助国、及び国際援助機関ではより効果的な援助のためにはこれまでのような総花的な援助ではなく、「選択と集中」が必要であるという共通の認識を持ちつつある。したがって、今後の援助の方向性を大局的に判断する一つの手掛かりとして、上述したセクター/タイプ別ODAのマクロ経済に対するインパクト分析を試みた。分析結果をまとめると以下の通りである。

(1) マクロ経済的観点から判断すると、ODAの累積的なインパクトが認められる主要なセクターは、「教育」および「社会保障、女性・青少年開発」である。そして、「農村・組織開発」や「通信」、「保健医療・家族計画」セクターも比較的インパクトが認められる。また、効果的なODAタイプは資金協力と技術協力との連携を強化したタイプである。

(2) 上記5分野のうち「教育」分野は、開発援助に占める割合は小さいが、援助を除く政府開発投資においてその占める割合が大きく、資本投資中心である。同分野の開発資金源別平均割合は、開発援助:45.0%、自主財源:55.0%であり、援助と自助努力に基づく相互依存的な開発が行われていると言えよう。

(3) 「社会保障、女性・青少年開発」分野については、開発援助および政府開発投資に占める割合は共に小さい。開発資金源別平均割合は、開発援助:28.8%、自主財源:71.2%であり自助努力中心の開発分野である。

(4) 「農村・組織開発」分野も、開発援助および政府開発投資に占める割合は共に小さい。開発資金源については援助依存度が高い分野である(平均65.3%)。

(5) 「通信」分野についても、開発予算全体に占める割合は小さい。当該分野の開発資金源は援助よりも自主財源の割合が大きい(平均63.2%)。

(6) 「保健医療・家族計画」分野は、政府開発投資に占める技術投資の割合が高いが、資本投資の割合は小さく、政府開発投資全体に占める割合は小さい。また、開発援助においてもその占める割合は小さい。開発資金源別割合では、開発援助:49.6%、自主財源:50.4%であり、援助と自助努力に基づく相互依存的な開発が行われていると言えよう。

(7) GDPセクター間の因果分析によると、農業、鉱業、建設業セクターの成長が他のGDPセクターの成長を促す原因となっている可能性が大きい。鉱業セクターに対して上記ODAセクターの他にインパクトが認められるのは、「水資源開発」分野である。農業生産に対しては「住宅・施設・上水道整備」分野、建設セクターに対しては「工業開発」分野のODAが唯一有意なインパクトを示している。

(8) 「水資源開発」分野は、政府開発投資および開発援助に占める割合が共に高い。特に、技術投資、技術援助の割合が高い。同分野の開発予算に占める援助依存度は平均50.5%であり、援助と自助努力に基づく相互依存的な開発が行われている分野である。

(9) 「住宅・施設・上水道整備」分野は、開発援助および政府開発投資に占める割合が共に小さい。開発資金源別平均割合は、開発援助:41.3%、自主財源:58.7%であり、自助努力主体の開発分野と言えよう。

(10) 「工業開発」分野については、政府開発投資に占める割合は小さいが、技術援助の割合が高い。開発資金源別平均割合は、開発援助:47.8%、自主財源:52.2%であり、援助と自助努力に基づく相互依存的な開発が行われている分野である。


マクロ経済に対して累積的な効果発現余地が大きいと思われる上記ODA分野のうち「教育」、「保健医療・家族計画」、「水資源開発」、「工業開発」分野は開発援助と自助努力の相互依存的な開発が行われている分野である。これらの分野の政府開発投資は、「教育」分野を除き技術投資の割合が資本投資よりも高い。また、これらの分野の開発援助においても、「教育」分野を除き技術援助の割合が資金援助の割合よりも高い。したがって、援助形態としては、「教育」分野は技術協力に比重を置き、その他3分野については資金協力に比重を置いた援助が効果的であろう。

「社会保障、女性・青少年開発」、「通信」、「住宅・施設・上水道整備」分野はこれまで、バングラデシュ国政府の自助努力を中心に取組んできた分野であり、援助依存度が比較的低い分野である。これらの分野の政府開発投資は、技術投資の割合が資本投資の割合よりも低い。したがって、これら3分野に対する援助形態としてはバングラデシュ国政府の自己資金と技術協力との連携を強化した援助が望ましいと言えよう。「農村・組織開発」分野は援助依存度が比較的高い分野である。同分野については、引き続き援助主導で開発を進めるほうが効率的であると思われる。また、本分野に対する援助配分実績は他の分野と比べて低いことからして、今後は資金協力および技術協力を拡大するとともに同形態の連携を強化した援助が望まれる。

世銀の報告書によれば、1990年代に蓄積された成長に関する理論的・実証的な研究の結果、開発モデルの重点は物的資本投資重視から、効率的な投資を助長し、人的資本の開発を支援し、技術進歩を助長することにより、成長を促進する制度と政策重視のモデルへと移行した。上記分析結果は、バングラデシュ国においてもこのような開発モデルが経済成長、ひいては貧困削減に効果的であることを示している。

「政治構造は脆弱であり、腐敗がはびこり、狭小な既得権によって公権力が牛耳られ、公共投資は浪費されている」と各ドナー、国際機関が懸念しているバングラデシュ国に対しては、セクターを絞った効果的な援助が望まれる。なお、現在作成中のPRSPや世銀、ADBなどの主要な国際機関では、バングラデシュ国に対する今後の援助の方向性として大型経済インフラよりも貧困層により直接的な裨益効果が見込まれる人的資源開発や農村・組織開発、行政組織強化や経済・社会制度改革など組織・制度インフラへの援助を打ち出している。

添付表5-3-1 対バングラデシュODA評価 (1983-99年)(PDF)

添付表5-3-2 セクター別GDPおよび輸出の因果関係(グランジャー因果テスト)(PDF)

このページのトップへ戻る
前のページへ戻る次のページへ進む目次へ戻る